【レポート】シリア紛争における"認知戦“の経緯 6/8
レポート「シリア紛争における"認知戦“の経緯」を全8回にわたりお届けします。
ロシア国営メディアが育てた英国人陰謀論ブロガーとカナダ人活動家
いずれにせよ、ビーリーはこうしたシリア関連のフェイク情報誘導記事により、サイバー空間では陰謀論ブロガーから“ジャーナリスト”に格上げされた。今も多くのフォロアーがいて、アサド擁護派の陣営では最も上位でジャーナリスト扱いされているといって過言ではない。
主な活動の場はロシアのRTだが、他にも『The Alt World』『Arrêt sur Info(スイス)』『Australian National Review』『BS News』『The Corbett Report』『Crescent International』『Dissident Voice』『Nexus Newsfeed』『Ron Paul Institute』『UK Column』『Unlimited Hangout』『Veterans Today』『Zero Hedge』など数々の陰謀論サイトに寄稿している。最後のZero Hedgeなどはやはり米国で人気の高い陰謀論サイトである(21)。
ビーリーはとくに、大手メディアとはまったく無関係の「アメリカン・ヘラルド・トリビューン」という陰謀論系ニュースサイトにも多く寄稿している。同サイトは2020年11月に、イランのイスラム革命防衛隊のダミー工作機関だとの理由で、米司法省がドメインを差し押さえたために閉鎖している。このように陰謀論のエコーシステムは、裏でロシア、イランなどの工作機関が関与していることが珍しくない。アサド擁護言説を拡散するサイバー空間の誘導工作も、間違いなくそのネットワークが関与している。
なお、閉鎖されたアメリカン・ヘラルド・トリビューンにビーリーが寄稿した誘導記事の一部は、エコーシステムの他のサイトに転載された。『Project Censored』『Free Speech TV』『Media Roots』『Shadow Proof』『The Grayzone』『Truthout』『Common Dreams』『Antiwar.com』など多数ある。アサド擁護のフェイク情報が紛れ込む陰謀論サイトのネットワークは広大だ。ひとつひとつの動員力は小さくても、それらが互いに引用・拡散することで、それなりに無視できない情報浸透力を持つ。SNSユーザーに留まらず、ときにあまりシリア情勢に精通していない大手メディア記者や研究者、著名言論人に影響が及ぶケースがある。
ビーリーの記事が転載されたサイトの中で比較的大手と言えるのが『MintPress News』だろう。2012年設立のミネソタ州を本拠とする陰謀論系ニュースサイトで、そこそこの読者がいる。シリア問題でもアサド政権側のフェイク情報を、しばしば掲載している。
MintPressは、イラン工作機関系のメディア表彰プログラムであるセリーナ・シム賞(セリーナ・シムは事故で亡くなった元Press TV記者)を受賞しているが、同受賞者には他にもバネッサ・ビーリー、前出のConsortiumnewsなどがある。
(5)アレッポ虐殺
現在に至るまで、アサド擁護派のSNS界でのフロントランナーはバネッサ・ビーリーだが、彼女に次ぐ2番手が、カナダ人の活動家/ジャーナリストのエバ・バートレットだろう。彼女はもともと韓国で英語教師をしていたが、パレスチナ支援運動に参加。2008年にパレスチナに移り、ヨルダン川西岸で8ヶ月、ガザ地区で2013年までの間に断続的に3年間を過ごした。
その流れから中東の反米人脈と繋がりができ、シリア紛争にもアサド擁護派として関わった。アサド政権とも関係ができて、2014年からたびたびシリアを取材している。シリア取材回数は2021年まで15回に及ぶが、首都だけでなく各地を取材するフリーランスとしてはおそらく最多の回数になるだろう。
バートレットの取材はもちろんすべてアサド政権軍・情報機関が同行しており、彼らがお膳立てしたとおりのフェイク情報を発表してきた。カナダ人ジャーナリストがアサド擁護という特異な立ち位置が、アサド政権当局に重宝されたということだろう。アサド政権からみたこのあたりの役割は、イギリス人女性ジャーナリストという建前のバネッサ・ビーリーに似ている。
バートレットが注目されたのは、一時期は反体制派が主要部を制圧していた大都市のアレッポに、2015年に参戦したロシア軍の空軍と共同でアサド軍が大規模に攻め込み、翌2016年にかけて市内を徹底的に破壊したときだ。アサド政権軍が市内を制圧した後にアレッポに軍と入ったバートレットが、「アサド政権が攻撃したのはテロリストだけで、住民を一切攻撃していない」「アサド政権を悪く書く西側メディアの記事はすべて嘘だ」などとまったくの嘘を発信したからである。こうしたバートレットのフェイク情報は、ロシアのRTを筆頭に、親アサド系の言論界で拡散した。